コラム - 犬のおはなし -
突然、首が右に傾いてしまい、真っ直ぐに立っていられなくなってしまった、という13歳のワンちゃんが来院しました。
よくみると、右斜頚・全身の振るえ・ 旋回運動・眼球振盪などがみられます。(突発性)前庭症候群と診断し、抗生物質や副腎皮質ホルモン剤を主体とした治療を開始したところ、斜頚はまだ少し残るものの、その他の状態はだいぶ良くなりました。前庭症候群とは、内耳の中の前庭と呼ばれる部分が何らかの炎症を起こしたり、脳の外傷・血管障害・腫瘍などによって突然平衡感覚を失ってしまう病気です。
平衡の維持、頭部の位置決めおよび眼筋の調整に関する筋群の制御が出来ないため、上記のような運動失調などの症状がみられます。今回の場合は症状が落ち着いてくれましたが、原因が中枢性の場合には残念ながら予後は不良となるケースもあります。
子犬に混合ワクチンを接種する時のプログラムは、まず生後2ヶ月で1回目の接種、1ヶ月あけて生後3ヶ月で2回目の接種をするのが一般的なやり方です。
生後2ヶ月くらいまでは、母犬からの移行抗体によって子犬は護られているので、よほどのことがない限り(例えばお産の時に初乳が飲めなかったとか・・・)、それ以前に混合ワクチンを接種する必要はありません。逆に言うと、2ヶ月齢以前に混合ワクチンを接種しても母犬の移行抗体によって打ち消されてしまうので、接種する意味がないということになります。また、この移行抗体は生後2ヶ月でパッとなくなるわけではなく、その子によっては2ヶ月半くらいまで持続することもあり、それを確認する ことは現場では出来ません。そういう子の場合は、生後2ヶ月で接種した混合ワクチンも打ち消されてしまっている可能性があります。生後3ヶ月で2回目の接種をするのは、1回目の接種が無効な可能性も考えてのことなのです(もちろん増強効果のためというのもあります)。
では、最初から、生後3ヶ月で1回目の混合ワクチンを接種すればよいのではないかと言われそうですが、それはかなり危険です。免疫が不十分な期間が確実に出来てしまうからです。いくら生後2ヶ月での混合ワクチンが無効になる可能性があるからといっても、その確率はかなり低いようなので、やはり基本的なプログラムにのっとって生後2ヶ月&3ヶ月での接種が推奨されるべきでしょう。
激しい痒みで耳介が赤剥けてしまったワンちゃんが来院しました。
検査の結果、疥癬症であることが判明しました。「疥癬」とは一般的にヒゼンダニによる皮膚の疾患のことをいいます。特徴的な症状はとにかく痒くて痒くてたまらないこと。あまりの痒さに夜も眠れないことがあるほどです。
ヒゼンダニは、皮膚の柔らかい部分、肘・かかと・耳の先端などから侵入し、皮膚の角質に入り込んできます。産卵・交尾を繰り返し、皮膚の中でどんどん増えていきます。痒みの主な原因はヒゼンダニの分泌物に対する過敏症。アレルギーが起こってしまうというわけです。ただ、このアレルギーは発症するまでに時間がかかり、遅い場合は3~6週間かかることも。その間に他の犬や人間にうつってしまうことが多いので注意が必要です。確定診断はヒゼンダニを見つけることですが、問題は、角質(皮膚の奥)に入り込んだヒゼンダニを見つけるのが以外と難しいということです。皮膚をしっかり掻爬(削り取ることです)して顕微鏡で確認するのですが、数箇所から材料を採取しなければ見つからないことが多く、見逃してしまう可能性もないとはいえません。
疑わしいのに見つからない場合は診察のたびに何度も検査する必要がありそうです。治療は、卵からかえるヒゼンダニもきっちり駆除するために、一定期間かけて行なう必要があります。
シーズーのワンちゃんの膀胱を切開して結石を取り出している写真です。
数ヶ月もの間、血尿になったり普通の色の尿になったりを繰り返していたそうですが、 以前から膀胱炎になったり自然に治ったりということがよくあったので、今回もまた飼主さんはついつい様子を見てしまったとのことでした。かかりつけの病院では、高齢で心臓疾患もあるこのワンちゃんの手術はちょっと難しいとのことで紹介されて当院に。
径3cmの大きさのものを筆頭に、数え切れないほどの結石を取り出しました。分析結果はリン酸アンモニウムマグネシウム(ストルバイト)。感染症の管理と食餌管理で再発防止可能なものだったので少しホッとしま した。代表的な処方食としては、ヒルズのc/d、ロイヤルカナンのpHコントロールなどがあげられます。出来れば、ここまで問題が大きくなる前に(結石が出来る前に)定期的な尿検査や食餌管理で何とかしてあげたいものです。
尿検査は結石その他の問題だけでなく、腎臓の状態をみる上でもとても大切なので、定期的に実施することをおすすめします。尿検査は目的によって採取方法を選択する必要があるので詳しくは当院受付にてお尋ね下さい。
肛門周囲には分泌腺(多くは皮脂を分泌しています)がありますが、これが腫瘤物を形成するようになったものを肛門周囲腺腫と呼びます。
去勢手術を受けていない高齢のワンちゃんによく見られます。雄のホルモンが関与していると考えられています。肛門周囲腺腫は良性のものが多いですが、中には肛門周囲腺ガンや肛門嚢アポクリン腺癌といった悪性のものが見られることもありますので注意が必要です。最初のうちは触っても痛くなく排便にも支障がないので何となく様子を見てしまいがちですが、自然に治ることはないので結局は切除手術が必要になってきます。長いこと様子を見てしまうと、腫瘤の表面に潰瘍が出来て出血したり、感染を起こして化膿したり、大きくなり過ぎて排便困難になったりします。
そうなると手術そのものが非常に難しくなってしまいますので、やはり早期(小さいうち)に切除してしまうべきでしょう。写真のワンちゃんのように腫瘤があまりにも大きい場合は、まず去勢手術を施して腫瘤が少し小さくなるのを待ってから切除するといった考え方もあります。猫ちゃんには肛門周囲腺がないのでこの病気は起こりません。