コラム 2007年06月 の記事
横隔膜腹膜心膜ヘルニア(PPDH)は、犬と猫で認められる最も多い先天性心膜疾患です。
心臓を包む膜(心膜)の形成が生まれつき不完全なために生じるも ので、横隔膜と心膜がつながったままになり、腹腔内臓器(腸管など)の一部が横隔膜のあいてしまった穴(胎生期には腹側正中部で心嚢と腹膜腔との交通があ るのですが、これが遺残してしまったもの)から心膜内に入り込んできます。
ヘルニアの程度にもよりますが、心臓は圧迫を受けるために機能障害をきたすこと がありますし、消化器症状や呼吸器症状がみられることもあります。
大半の症例は4歳齢以下で診断され、その多くは1歳齢以下です。ただし、臨床徴候を呈さ ないで、中年以降になってから偶然発見される場合もあります。写真は7歳半の猫ですが、泌尿器疾患のレントゲン検査でたまたまPPDHが見つかった症例で す。治療は、ヘルニアを起こした臓器をもとの位置に戻した後、腹膜と心膜の間のヘルニア部位を外科的に縫合閉鎖します。他の先天性奇形の有無やその動物の 状態を考慮して手術すべきか否かを判断します。特に臨床徴候のない老齢動物では手術を行なわずに様子をみることもあります。
老齢のオスのワンちゃんの肛門のまわりをよく見てみると、小さいしこりが出来ていることがあります。
これは肛門周囲腺腫といって、肛門のまわりにある分泌 腺が腫瘍化したものです。睾丸から出る雄性ホルモンが原因でこの腫瘍は発生するので、特に去勢手術を受けていないオスの老犬に多く見られます。ただしメスのワンちゃんでも、副腎皮質機能亢進症などを患っている場合には性ホルモンが多量に分泌されるため、この腫瘍が出来ることがあります。もちろん発生頻度は 圧倒的にオス犬の方が高いのですが、オス犬の肛門周囲腺腫が良性のものが多いのに比べて、メス犬の肛門周囲腺腫は悪性のものがほとんどです。
いずれにして も手術で取り除いてあげる(同時に去勢手術も実施)のがベストな治療法と言えますが、老齢犬の場合は麻酔管理が大変であったり、また悪性腫瘍の場合は転移 なども考慮せねばならず、けっして楽な相手という訳ではありません。ただし若いうちに去勢手術を受けたオス犬にはこの腫瘍が発生することはほとんどありません。